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これ、1回目は謎だった。「韓国民主化運動をテーマとした映画」のお薦めリストに入っていたので見たのだが、どう見ても「踏み外した男のどこまでも悪化していく人生」を描いているようにしか見えなかったので。
確かに民主化運動に関わることは出てくるのだが、それはあくまでも主人公の置かれた立場を説明しているだけの話だと思った。
よくわからず「ひたすら重い」という感想しか持てなかったので、感想をいくつか読んで、それから2回目を見た。
大事なのは(というかそれがこの映画のスゴイところだったのだが)、回想ではなく巻き戻しだという点。よく見ると背景の車や人の動きも巻き戻しになっている。
巻き戻しだと把握した上で丁寧に事項を追っていくと最初見た時に気づかなかったことが色々見えてきて、ところどころのセリフに深い意味がこめられていることにも気づく。
光州事件という言葉はまったく出てこない。感想では「規制されているので表現できなかったのではないか」という声が多かったが、この映画の2年前に制作された『タクシー運転手 約束は海を越えて』でさえ露骨に光州事件を描いているのだから、規制ではなく恐らく故意だと思う。
「1980年5月」とだけ表現される光州事件のシーンは10分もあっただろうか? けれど、その短い曖昧な描写に「狂気」「人としての心」「残酷さ」「命の軽さ」「理不尽さ」が織り込まれて余計に闇が密度を増していく。
ちょっとだけネタバレするが、主人公は1980年に軍人で、1987年(抗議デモでイ・ハニョルが命を落とした年)には警官だった。主人公の羽振りが良かった1994年は韓国の景気が上向いた年。
つまり、この物語の「ひとりの男」は韓国そのものの姿だということでもある。
主人公のメンタルや表情を見て行けば「光州事件」がいかなるものかわかる。光州事件、1987年の民主化運動、そこで弾圧の側に立ったものの心の崩壊。直接表現ではないからこそ訴えかけてくるものは重い。
上記のポイントを押さえて視聴すると1回で把握できると思う。「その夢、いい夢だといいけど」の意味がわかればこの映画を理解したと思っていいだろう。
20歳から40歳までを一人で演じたソル・ギョングの演技力は必見。
この映画は韓国民主化の背景を知らないと「組織でどう生きるか」とか「運命を受け入れるとは」なんていう自己啓発的な話になりそうなので、日本人には解釈が難しいかもしれない…… この映画を使って知識人たちが座談会やってる動画があるけどコメ欄見ると「いかにわかってないか」が露骨。座談会の参加者の一人(藤井聡というのだが)が「さきほど40分前に見終えたばかり」と言っていたのでその段階で「一回見ただけでわかるかい!」と思った次第。
せっかくの名作なので深く理解することをおすすめする。