クロノスの新世界展望 ☆Type: INF-J 提唱者★

16Personalitiesによると世界人口1%未満の「提唱者」という面倒なタイプらしいが、実際「ここまで腐った某国は滅びた方いいかも」と思いつつも冷酷に傍観者になれないので困っている…いやホント…

『ゲバラ覚醒(ポーラースター1)』/ 海堂尊著

本日はチェ・ゲバラを描いた小説シリーズの第1巻を紹介します。キューバ革命は第4巻で描かれるようですが、そこで完結するのか未完なのかは読んでみないとわかりません。説明文を読んだ限りでは3巻・4巻はフィデル・カストロが中心のようです。(ちなみにこの記事はネタバレありなのでご注意を)

 

ゲバラのことも南米のこともほぼ知らない私には程よい入門書でした。

以前海堂尊氏の医療小説にハマり込んだことがあったので「チェ・ゲバラを知るための1冊目」として迷わずこのシリーズを選んだ。あくまでも小説なので「大体の流れがわかればいいかな」程度の感覚だったのだが、参考文献が200冊以上並ぶほどに史実に忠実な内容のようだ。具体的な設定はフィクションの部分が多いようだが、そこは「小説」なので仕方がない。

 

読み始めてまず、自分が南米をまったく知らない、という事実を知った。前の職場で「コロンビア滞在歴が長い方」と御一緒してよくコロンビアの話を聞いていたのに、コロンビアの場所すらよくわかっていないのだ。情けない(-_-;) 

 

けれど、今の時代は地図と写真を見ながらストーリーを追うことができるので、場所だけではなく場の空気を追うこともでき、エルネスト・ゲバラと一緒に旅を楽しむことができた。

 

「革命家」というイメージが先行していたので、エルネスト・ゲバラという青年が恋を楽しみ、情熱のままに行動し、感情のままに人生を楽しむ医学生であったことが驚きだった。

 

ja.wikipedia.org

エルネスト青年が医学生として過ごしていたアルゼンチンはエバ・ペロンの時代。エルネストがエバの夫となるフアン・ドミンゴ・ペロンに反感を抱いていることが描かれている。小説の中で、エバとエルネストは密かに恋心を抱く心の伴侶のように描かれるが、実際は二人が接触したという記録はないらしい。

 

エルネストとピョートル(これは架空の設定で実際のパートナーはこちら)が旅に出る前にエバは政治家としての手腕を発揮していた。

 

さて、旅の様子はゲバラ自身が旅行記を記しているが、レビューを読む限りではこの旅行記の中では「革命家」に結びつくような表現はなかったようだ。

海堂小説の中では「バナナ共和国」というタイトルの章が政治的要素を含んでいる。エクアドルグアヤキルでお金がなくてバナナ農園で働かざるを得なくなった二人。そこでお世話になった老人が「農園主の搾取に抵抗するスト」の首謀者だった。無知なエルネストはその事実を体制側(多国籍企業)に伝えてしまい、老人は長年親しんだバナナ園を移動させられてしまうのだ。(この時代も今も、結局は「多国籍企業」という金の亡者によって人々は支配されていると痛感)

 

旅をするエルネスト・ゲバラは「医師」「吟遊詩人」「考古学者」という3つの夢を持っていたが、「それは自分の未来ではない」とも感じていた。旅の最中に見聞した政治的な出来事によって世界の構造を学んだことが彼を違う道に導くのだろう。

 

この旅の目的であった「サンパブロ診療所(ハンセン病患者のための診療所)」に一週間滞在し帰路に着くのだが、エルネストの我儘からマチュピチュ遺跡を経由することとなった。

 

マチュピチュ遺跡を訪れたエルネストは、スペインによる征服に思いを馳せた。そして、彼の中で「非武装革命」という信念が崩れる瞬間が来る。

www.his-j.com

「-弱さは罪だ。戦え、大切なものを守るために」という天の声を聞いたのだ。

 

さて、牧歌的な風景に酔いしれたところでいきなりCIAエージェントが登場する…というか、実はお世話になった人がCIAだったという話なのだが。どうやらこの時代はCIAの黎明期らしい。バナナ農園の話でも登場したので「多国籍企業+CIA」というセットは今も昔も同じということだ。

 

故郷のアルゼンチン・ブエノスアイレスを目前にした二人だが、「コントラクト錫鉱山」に寄り道することにした。ボリビアの政治状況は非常に複雑で、それが顕在化するのが鉱山のストのようだ。それは現在でも続いている。

 

www.newsweekjapan.jp

 

二人はストの現場から逃げてきた夫婦と出くわして鉱山行きを止められる。彼らは左翼革命党(PIR)の共産主義者だが「革命労働党(POR)に鞍替えするし、国民革命運動党(MNR)との同盟に同意した」と告げた。それを本部に伝えることが彼らの使命だったのだ。危険は承知で鉱山入りを決意した二人だったが、「現場では役に立たない」と遠回しに指摘されことは心に重く響いた。

 

実は鉱山医であった夫から鉱山の惨状を聞かされたエルネストだったが、鉱山行きを断念する気はなかった。だが、その意固地な決意はパートナーのピョートルを地雷によって失うと言う悲しい結果をもたらしてしまった。

 

失意の中を母国アルゼンチンに戻ったエルネスト・ゲバラ。旅の間に両親は離婚していて彼を迎えたのはママンだけだった。

 

そして久しぶりに会ったエバ・ペロンからは彼女が病気で余命幾ばくもないと聞かされる。エバはアルゼンチーノの絶対的な人気と信頼を得て、命を削って国民のために活動していた。

 

すべてが平和や静寂から遠のいてしまったある日、エルネスト・ゲバラは家を出た。1952年3月末、革命の足音が鳴り響くボリビアゲバラは旅立ったのだ。

 

【読後感】

 

後半まで牧歌的な風景が展開していたのに、いきなり雲行きが変わりました。革命前夜とはこんな感じなのでしょうね。ピョートルを地雷で失うという展開は意外でびっくりしましたが、このストーリー展開のために実際とは異なる人物設定をしていたのだ、と納得でした。こういうところが『チームバチスタの栄光』等のシリーズで見せた海堂作品の魅力なんですよね。

 

「錫鉱山」の話では、「劣悪な環境で長くは生きられない。どうせ30歳くらいで死ぬのなら革命を起こそう」という動機で労働者は支配者に抵抗するというセリフが衝撃的でした。セリフ自体は創造でしょうが、そんな労働環境で搾取させられる人達が居る反面、その環境を生み出す連中がプライベートジェットで豪遊しまくっているという現在の状況が思い浮かんで怒りを覚えました。(そのプライベートジェットでCO2を大量にばら撒いている人達が「脱炭素」を叫んで庶民の生活をより苦しくしているという現状に怒りは増幅するわけです)

 

それにしても南米とはなんと魅力溢れる土地なのでしょう。今までまったく興味を持たなかったことが悔やまれます。近いうちにゲバラの旅日記を読んで脳内で臨場感に浸りたいと思っています。 

 

この巻では政治的な話はさわりしか出て来ないし、基礎知識がないので概要が掴めません。これは2巻に譲るしかないようですね。図書館で借りているので2巻がまだ貸し出し中でしばらくは読めませんが;